新潟は目と鼻の先。ところが旅人を困らせるある難所が待ち構えていました。その名は親不知。なんと不吉な名前なんでしょう。それを越えた先でまさかの出会いが!それでは行ってみましょう!
コソコソ
テントの周りが明るい。朝だ。
海岸で寝るのは初めてだった。眠りにつくまでの何とも言えない孤独感。そして暑さによる寝苦しさと何か小さいものがコソコソ動く音により、見事に睡眠時間は削られた。テントの中には何もいない。
外を見てみる。
昨日の船がまだ…。
あそこだけ時が止まっているようだ。
テントの周りを見わたす。コソコソ動いていたのは、フナムシだった。体長は3㎝ほど。見た目はダンゴムシのようだが、動きはなんだかGに似ている。特に害はないようだが、テント周りには少なくとも20~30匹のフナムシがいた。
なんだここはフナムシのたまり場か。
どうやら孤独な夜ではなかったらしい(笑)
太陽が出てきそうだ。
光を全身に浴びる。何も食べていないのに不思議と元気が出る。朝日のパワーはすごい!
さ、今日も行くか!
修理
テントを片付け、荷物を自転車に積み込む。おっと一つ忘れていたことがあった。
スタンドだ。昨日止める際に重さに耐えきれず曲がってしまった。どうやら中の軸が曲がっているらしい。後ろの荷物の重さは約17kg。それをこの片足スタンドで支えるのは難しかったか。だがスタンドがあると、何もないところで写真を撮るのに便利なのだ。
とりあえず地面にたたいて直す。多少ネジの凹凸が削れてしまうが仕方ない。
とりあえずはまった。次折れたら交換やな!
少しでも重量を減らすため米をたく。自宅から米を0.5合ずつ袋に分けて持ってきていたのだ。
半分食べて残りはおにぎりに。
ああ、なんて家庭的な旅人なんだろう(笑)
今日はある難所が待ち構えている。水のみ場のおじいちゃんが気をつけろと言っていた親不知だ。富山と新潟の境にある峠らしい。しっかりと準備しておかなくては。
親不知へ
勢いよくスタート!
ん?今なんか通ったような…。
キツネや!
野生で見るのは初めてかもしれない。北海道では結構見られるそうだが、まさかここで出会うとは。
新潟県の看板だ。あれ、親不知は通過したのか?それとも…。
「親不知スピード落とせ」の文字が見える。やはりまだのようだ。
地図で見るとこんな感じ。ご覧の通り、いくつものトンネル、しかも上りのトンネルが続く。正確にはロックシェッドと呼ばれる、落石や土砂崩れから道路を守る半トンネルのような構造物がいくつか続く。
親不知の始まり、市振駅近くの海岸から撮影した親不知の国道。いくつものトンネルが続いている。
親不知の正式名称は「親不知子知不知」
なんだか漢文のようだが、親不知駅のあたりを中心に富山に向かう西側を「親不知」、東を「子不知」というらしい。聞いていた話ではトラックが多く通り、自転車で通過するのは危険が伴うという。
実際に通ってみた。
残念ながら写真を撮る余裕はなかったが、抜け道のある場所まで無事に通過できた。幸い車通りは少なく、片側の車線で工事が行われていたため、誘導を受けながら焦らず進むことができた。しかし、上りのトンネルというのはきつい。ふらつけばすぐに車と距離が近づく。
ロックシェッドを3つほど通過したところの旧道の抜け道だ。「歩行者と自転車はこちらへ」の看板があったので、この先のトンネルを行くことは推奨されていないようだ。
この辺りは古くから特に通行が難しかった区間。断崖絶壁にかろうじて道が続いている。
道がないころは、波にのまれる覚悟で通っていたそう。
通った人も偉大だが、道を作った人も偉大だ。
街道開通時に刻まれた文字が見える。開通した喜びを表しているらしい。
イギリスの宣教師であり登山家でもあるウォルター・ウェストンの像。日本の登山の発展に大きく貢献し、かつて親不知にも訪れたそう。そのとなりは自転車の旅界に革命を起こす…のを夢見るともや。
よし、一番きついところは越えたようだ。
高速道路下の道の駅に立ち寄る。
飲み物を買って、巨大カメさんと一緒に一呼吸。
こちらは海上を走る北陸自動車道。日本で初めて海上インターチェンジを採用した高速道路だ。
ここからもういくつかトンネルを抜けると、親不知子不知はクリアとなる。
親不知の攻略ポイントは、とにかく焦らずゆっくりと。後ろから車が来ようがマイペースに横ぶれは少なく進みましょう。ここだけに限ったことではないですが、テールライト(後方につけるライト)は必須装備です。むしろ前よりも重要。後方車にしっかり自転車の存在を知らせましょう。つける場所は旅の自転車の場合荷物があるので、後ろのバッグのできるだけ右端につけるのがより安全かと思います。
セブイレに集まる旅人たち
親不知を無事通過してすぐのことだった。
なんやあれ?
反対側の歩道で何かを引いて走っている若者がいる。
うそやん…人力車や!
そんなはずはない。いったん前を向きもう一度見てみる。
やっぱり人力車(笑)
反対側にわたって声をかけてみた。
ちょうどセブイレがあったので一緒に立ち寄る。
彼の名はシュウくん。和歌山から出発し、ここ新潟まで人力車でやってきたウソみたいなホントの旅人だ。旅の話を聞くが今だに信じられない(笑)
それにあの親不知をこれで越えてきたというのか…。
親不知は旧道を使って数時間かけて攻略したらしい。すさまじい。まさに親不知恐不知の旅人だ。
飲み屋で友だちとしゃべっているとき、何で日本一周するかを考えていてノリで「人力車」と言ったら、本当にそう決まったそうだ。
みなさん人力車っていくらするか知っていますか?なんと80万だそうです(笑)
それをクラウドファンディングで集め、旅に挑戦しているそうだ。
こんなすさまじい人には会ったことがない。引き続き旅の話をしていると、バイクのエンジン音が聞こえた。2台のバイクが目の前に止まる。
側面には「日本一周」のステッカー。
えー!?うそやろ(笑)
なんと今度はバイクで日本一周をしているご夫婦が参上。
夫婦で旅なんて憧れますねえ^^
それにしても、すごくないですかこの並び(笑)
日本一周自転車がかわいく見えますね(笑)
みなさんまたどこかで会いましょう!
フォッサマグナ
この言葉を一度は聞いたことありませんか?でも説明しろと言われると難しい(笑)
ということで勉強しに行ってきました!
こちらはその名もフォッサマグナミュージアム。糸魚川市にある火山や石について学べる博物館だ。
フォッサマグナとはラテン語で「大きな溝」という意味。写真で黄色で塗られている範囲がいわゆるフォッサマグナと呼ばれる地域。
西の端は糸魚川-静岡構造線。東の端は新潟の新発田あたりから千葉までを結んだ構造線である。溝といっても実際に地形的にくぼみがあるわけではない。写真の18・19番あたりの関東山地を除く黄色の部分には比較的新しい時代の岩石がつまっている。ここが日本列島がアジア大陸から離れるときにできた大地の裂け目であると言われているのだ。
館内には、糸井川周辺が主な産地として知られているヒスイが多く展示されていた。緑色の鉱石で、古くから装飾品に加工されてきたそうだ。
今日の勉強はここまで!
さあこぎまっせ!
スーパーのベンチで
糸魚川市内から海沿いの道を進む。歩行者自転車専用の道があって走りやすい。
日差しがきついな。スピードが出ているときに虫や木の枝に当たると結構痛い。サングラスはあると安心です^^
海沿いはやっぱ気持ちいなあ。ずっとこんな道やと北海道まですぐに行けそうや。
腹が減ったのでスーパーでプロテインを買った。これでキン肉マンになれる日が近づいた。なんて冗談を言っていると、通りがかりのおばちゃんがチキンをくれた。くぅうう!ありがたい^^
チキンをむしゃむしゃ。これでなかやまきんに君に近づいた。なんて冗談を言っていると、今度は別のおばちゃんが自転車をじろじろ見ている。
おはなしきくたびって、あなたがなんか話してくれるの?
看板を見てくださったようだ。
あ、えーと、出会った人のお話を時間の許す限り聞くって感じです^^
へえ、自転車で回りながらね、すごいね!
そう言っておばちゃんは横にちょこんと座った。大阪から何日かかったの?ご飯は?寝るところは?
おばちゃんは頭の中の?を次々と質問してくださった。結果的に自分が話をするばかりになってしまった。こういうパターン結構多いんですよね。でも気になっていろいろ聞いてくださるのは嬉しい^^
お話聞いてくれるんじゃないのー?
おばちゃんとお別れし、再び海沿いの道へ。
お?なんか見えてきた。
神社か?いや燈台か?
灯台だった。恋する灯台か。大丈夫、俺は今自転車に恋をしている。とりあえず自転車ちゃんの写真を撮っておこう。アイラブユー自転車ちゃん。
今度は道の駅だ。ここの名物は…
カニだ!
店頭には新鮮なカニがずらりと並ぶ。旅人にとっては少し値段は張るが、おいしそう。自転車と一緒にとりあえず一周。すると店番をしているおばちゃんが勢いよく声をかけてきた!
お兄ちゃんカニどう!?安いよー!!
次の店でも
カニおいしいのあるよー!!どうですかあ!!
その次の店でも、その次の次の店でも…。うーん、今日はキャンプ場を予約しているし、晩ご飯にお金を使いたい。おばちゃん包囲網を抜け出し、道へ出る。
ふう、なんとか誘惑に耐えたか。そう思った次の瞬間。最後のおばちゃんが叫んだ。
お話聞いてくれるんじゃないのーーー?
ごめんよおばちゃん、カニの話はもうお腹いっぱいだ(笑)
手作りキャンプ場
上越市に入った。めざすキャンプ場はまだ先。
トンネルの中でパシャリ。普段トンネルの中では止まれないが、ここは歩行者自転車用。親不知にはない安心感(笑)
涼しい風が通り抜ける。出たくないなあ。
日が傾き始めた。急がなければ。有料のキャンプ場はチェックイン時間が決まっている。
珍しい形の雲。行先を示してくれているかのようだ。
今日の夕日もきれいだ。日本海側に入り、毎日のようにこうした夕日を見ている気がする。
急ぎだが、この瞬間だけは立ち止まりたい。
今日も一日見守ってくれてありがとう。
本日のお宿に到着。
こちらは柏崎市の自然いっぱいのキャンプ場「青海川オートキャンプ場」
場内の設備はなんとすべてオーナーさんが作ったそう。
手作りのキャンプ場かあ。すてきやなあ^^
電話でとても丁寧な対応だったオーナーさん。実際にお会いしてみても優しいすてきな方でした^^
ここにテントを立てよう!
料金はフリーサイトでテント泊の場合、1泊1000円。最近のキャンプ場はソロの利用でも3000円ほどとられてしまうところもある。旅人にとってはありがたい価格設定だ。少し離れたサイトに1組お客さんがいたが、こちらのサイトはほぼ貸し切り状態。今日はバキバキ焚き火しまっせ^^
素潜りが得意なオーナーさん。受付では自ら獲ってこられた海産物が売られている。オーナーさんと旅の話をしていると、ありがたいことに余ったサザエを分けてくださった。もちろんこれは特別なサービス。本来なら有料のものだ。焼いて食べたら絶対うまいですやん!^^
あたりにサザエの香りが…。これはもう食べる前からうまい!
カメラさんに箸あげを見せておきましょう。はい、ブレブレです(笑)
絶品を味わい、夜の落ち着いた時間が訪れる。焚火の火はもう少しで消えるだろうか。
明かりを消すとあたりは真っ暗。聞こえるのは隣を流れる川の音と虫の音。
見事な星空。川には数匹ホタルの姿も見られた。
おいおい、最高すぎるやんけこのキャンプ場。親不知という難所を攻略することから始まった48日目。
人力車の彼はどこまで行ったかな。
明日はどんな出会いが待ってるんやろう。
周りに人はいないが、今日はこの静けさを大事にしたい。
そっとテントの中に入り、眠りについた。
柏崎市までのルート
親不知を越えた後はほぼ平坦な道が続きます。親不知は攻略ポイントで示した通り、とにかく焦らずゆっくりと。安全運転で行きましょう!
2022年 6月30日【48日目】
富山県朝日町→新潟県柏崎市
走行距離 100.9km
積算距離 2,456.1km
まさか人力車で日本一周をしている人に出会うなんて。彼を最初に見た時の驚きは今でも忘れられません。彼とはもう一度旅中に出会うことになります。それがまたすごい出会いで…(笑)まだまだ先の話ですがお楽しみに!